【目上の方には失礼です】
後付で日付、署名、宛名を書いてから、書き忘れたことを思い出すことがあります。そんな場合、宛名のあとに『追伸』として、用件を書き加える場合がありますが、この方法はどんな手紙にでも利用できるわけではありません。
目上の人に出す場合や改まった手紙では、もし書き忘れた用件があれば、もう1度はじめから書き直すのがマナーです。『追伸』はその手間を惜しんだような印象を与えてしまいます。
特に、結婚式の挨拶状やお祝いの手紙、お悔やみの手紙などには用いないのが常識です。
【姓名とも書くのが現代的】
後付に記す自分の署名は、姓を省き、「○○子」と書いたほうが謙虚で奥ゆかしいとされてきました。でも、現在では自分の署名もフルネームで書くのが普通です。ことに夫の上司にあてた手紙などに女性が名前だけで出すのは、何か特別な思いがあるようにも勘ぐられかねません。同じ名前の知り合いがいる場合もありますから、まぎらわしさを避けるためにも親類や親しい友人などに出す手紙以外は、後付の署名には自分の姓名をはっきり書きましょう。
一方、後付のあて名は名前を省き、姓だけにしたほうが敬意を表すことになります。目上の方の場合は特に、名前まで書くと気安すぎる与えがちです。あて名の『様』や『先生』などの敬称は封筒の表書きと統一しましょう。
【署名に『内』と添える】
夫の手紙を妻が代筆した場合は、本人に代わって妻が手紙を書いたことを相手に伝えるため、本人の名に『内』と書き添えます。
後付に夫の名をフルネームで書き、その左脇にやや小さい字で『内』と記せば妻が代筆したサインです。夫婦そろって相手と顔見知りの間柄であれば、『内』に続けて妻の名前を記します。夫の仕事関係者など妻とは面識のない相手であれば、『内』だけにして妻の名は省いた方がよいでしょう。
会社などで上司の代わりに部下が代筆した場合は、後付の本人の名前の脇に『代』と書きますが、これは家族内では使わないのが決まりです。
【相手の体をいたわる言葉】
手紙も末文の最後には「くれぐれもお体をおいといくださいますように」「寒さの折からお体をお大事に」「時節がら、ご自愛くださいますよう」なそといった相手の健康を祈る一文を添えるのが一般的な書き方です。「お体ご自愛ください」と書く方がいますが、これは誤りです。自愛=自分で自分の体を大切にすることなので、「ご自愛くださいますよう」が正解です。
また、「御一家のご多幸をお祈り申し上げます」「ますますのご活躍とご発展をお祈りいたします」など、相手の繁栄を祈るあいさつで手紙を結ぶ場合もあります。
ほかに「ご主人様にもくれぐれもよろしくお伝えくださいますようお願い申し上げます」といった伝言のあいさつや、結語の代わりにもなる「まずはお礼まで」「とり急ぎご連絡まで」といった要旨のまとめもあります。結びのあいさつで手紙の内容をしめくくったら結語の『かしこ』や『さようなら』を書き、後付に移ります。
【出さずじまいは失礼】
お世話になったり、品物が届けられたときのお礼の手紙のタイミングが第一です。どんなに長々とした文章を書き連ねても、1か月も2か月もたってから出したのではエチケット違反です。手紙の返事も同様で、いつまでたっても返事が来なければ相手は待ちくたびれ、人間関係にもヒビが入りかねません。でも、いくら遅くなったからといって、出さずじまいはもっと失礼です。
「さっそくお礼を申し上げなくてはならないところ、雑事に追われて延び延びになり、申し訳ございございません」「折り返しご返信すべきでしたのに、大変遅くなりまして幾重にもおわび申し上げます」など手紙の遅延を十分にわびて出しましょう。手紙は遅くなれば遅くなるほど書きづらくなるものです。どんな簡単な内容の手紙でも早く出すことが誠意を伝える鍵なのです。
【手紙の内容によっては省略】
安否のあいさつには、相手の安否をたずねるものと、自分側の安否を伝えるものとがあります。一般の私信では、先に相手の安否えを、次に自分の安否を書くのが普通です。でも、手紙の内容によっては、いずれかひとつが省略されたり、あるいは両方省略される場合もあります。
まず、相手の安否のあいさつが省かれる手紙としては、病気見舞いです。すでに先方が健康な状態でないことはわかっているので、あえて安否をたずねる必要はありません。病人やケガ人に「お元気ですか?」もないものです。災害などのお見舞いの手紙も同様です。これらの手紙では、自分側の安否のあいさつもたいてい省略されます。
また、慶弔事のあいさつ状などでは、相手の安否をたずねる一文は入れても、自分側の安否を伝えるのは省略されるケースが多いようです。
【季節の変化を自分の言葉で】
女性の私信の時候のあいさつは、自分の身の回りで見たり感じたりした四季の移り変わりを、会話をするように書けばよいのです。ふだん自分が使い慣れない言葉をわざと使う必要はありません。
昔からよく用いられる「早春の候」「薫風のみぎり」といった時候のあいさつは、現代の女性にはやや不似合いです。いかにも借り物の表現という感じがして、中身のない形だけのあいさつになりがちです。自分の身についた表現、自分の言葉で書きましょう。
ちょっと窓の外に目をやれば、気づくことがたくさんあります。キンモクセイの花が開きかけていたり、真夏の太陽がサンサンと照っていたり、あるいは街路樹の落ち葉が舞っていたり。
家の中にだって季節の変化を表すものは見つけられるはずです。それをありにままに飾り気のない気持ちで書いてみてください。
【謹み、敬う意の女性の結語】
『かしこ』は女性の手紙の結語として使われ、漢字では「恐・畏」と書き、“謹み、敬う”といった意味があります。ですから、『敬具』と同じで、女性の改まった手紙に使う結語なのです。しかし、今は目上の方にも『かしこ』の代わりに『さようなら』『ごきげんよう』を結語として使っても失礼にあたることはありません。
また『前略』や『急啓』などの頭語を置いて前文のあいさつを省いた手紙の結語に『かしこ』を使うのは誤りです。『早々』や『さようなら』などをつかいましょう。
【速達の場合だけに】
『前略』は、“前文に」あたるいろいろのあいさつを省きます”という意味の頭語。緊急に知らせなくてはならない用件を相手に伝える手紙などの冒頭におくものです。つまり、“急いでいる”ニュアンスを伝え、時候のあいさつや相手の安否をたずねるあいさつなどは省いて、いきなり用件に入ることを示します。
でも、どんな手紙にも『前略』を用いるのは考えもの。本文、前文で時候や安否を問うあいさつをするのが手紙のマナーなのですから、速達で出すような緊急時以外はあまり使うべきではありません。
ことに目上の方へのお礼状などには『前略』は禁物。たった1,2行のあいさつを書くヒマもないのかと思われかねません。反対に、『前略』と最初に書きながら、続けて「春らしい季候になりましたが、お元気でお過ごしですか」などと前文のあいさつを書くのもおかしなものです。手紙の目的に合った使い方をしてください。